4 弁論大会原稿(2018年6月 慶慶新人戦)

過去の弁論原稿をひっそりと公開しておこうと思います。

今になって見返せばもっとやりようはあったと感じますが、弁論に触れて2ヵ月だとこんな弁論原稿しか書けないのだなぁと思うばかりです。

 

 

以下本文

 

導入 (210)

働けど働けど 猶わが暮らし 楽にならざり ぢっと手を見る、石川啄木の歌集、一握の砂の代表作です。啄木の苦労が歌から読み取れます。

 

現状の日本の労働環境に目を向けると、まさに、働けど働けど、という言葉が適切だと感じます。もっと言えば、働いても働いても、生活が楽にならない、こういった閉塞感は、個人の生活を超えて経済全体、国全体を覆っているようにも感じられます。

 

これは単なる杞憂ではなく、実際に我が国が直面している課題でもあります。

 

理念 (51)

本弁論の目的は、こうした閉塞感を打破し、将来世代にわたって活力ある国力と雇用の維持を実現することです。

 

紹介 (431)

現在、我が国では労働者の雇用を維持するため、労働者を簡単に解雇できないようにするために解雇規制というものが存在します。

解雇規制とは、国会が定めた成文法ではなく、裁判での数多くの判例から確立した判例法です。これには大きく4つの要素が存在します。

これら4要素を紹介しますと、解雇する必要性がある場合において認められる、という意味で「1、人員整理の必要性」、解雇以外のあらゆる手を尽くさなければならないという意味で「2、解雇回避努力義務」、解雇される人を恣意的に選んではならないという意味で「3、被解雇者選定の合理性」、解雇に至るまでのプロセスを適切に行わなければならないという意味で「4、解雇手続きの妥当性」です。

 

これらはどのように確立してきたのでしょうか。

1970年代、高度経済成長期に目覚ましい経済発展を成し遂げた日本では、社員は家族、このスローガンのもと、一人の人間が一つの会社で生涯働き続けることが当たり前でした。

こうした社会の流れを受けて解雇規制は確立しました。

 

現状 (650)

こうして労働者の保護を目的として成立した解雇規制は、現在ではその存在がかえって労働者を苦しめるものになっています。

 

一度、解雇規制を労働者の視点ではなく、雇用する企業の側から捉えてみましょう。

IT化やAIの台頭といった革新的な技術進歩、グローバル化の中で国際競争、産業構造の変化が激しくなっている現在、企業には臨機応変選択と集中が求められているといえます。

 

こうした状況の中で、容易に解雇ができない企業は選択と集中ができず、不採算事業を抱えこんでしまいます。こうした不採算事業の抱え込みは、直近では2009年のリーマンショック時に顕在化し、雇用保蔵を400万人以上抱える結果になりました。

また、不採算事業を抱えなければならないために、新規事業開発に積極的に取り組めない、リソースを十分に投下できない状態になっています。

 

実際に、各国統計を比較分析した研究によれば、新規産業を含む高リスクかつ革新的な産業分野において、雇用保護規制が厳しい国や地域を企業が避けることや、雇用保護規制が強い国ほど産業数も少なく、規模も小さいことが明らかになっています。

 

 

不採算事業に労働者を抱え込むことは、企業にとって大きな負担になるだけでなく、労働者にとっても給料削減や福利厚生の劣悪化など、生活に大きな悪影響を及ぼします。

しかも、これは現在の問題のみならず、将来世代において雇用の受け皿となる企業の減少に直結する問題です。

 

このまま何も手を打たずにいれば、日本国内の雇用は加速度的に先細りし、企業、労働者双方に回復不能なダメージを与えます。

 

原因 (1,027)

なぜこのような状況になっているのか。その根本的な原因は時代錯誤な解雇規制に他なりません。もちろん、企業よりも弱い立場に置かれる労働者の雇用を保護するという「本来の」目的自体は否定されるべきでないと考えます。しかし、現在の解雇規制では雇用は守られないどころか悪化すると考えます。

 

では、なぜ解雇規制が根本の原因であると言えるのでしょうか。

 

まず最初に、先ほど紹介した、現在の解雇規制4要素における問題点をお話しします。

具体的には、解雇する必要性がある場合において認められる、という意味で紹介した「人員整理の必要性」と、解雇以外のあらゆる手を尽くさなければならない、という意味で紹介した「解雇回避努力義務」についてです。

 

この二つの要素に関して、解雇の必要性が認められるかどうかは裁判の場で裁判官の判断にゆだねられており、企業にとって予見可能性の低い状態になっています。また、これが認められる経営状態は、単に収支決算が赤字というだけでなく、非正規雇用の削減や、人件費の削減、新規採用の抑制、業務量の増加などを行っているか、なども判断材料になります。

 

つまり、雇用されている労働者の待遇も極限まで切り詰められ、企業も体力を失い、新規採用の抑制という形で、雇用されていない労働者も雇用される機会を失うという事態を招いています。

 

次に、具体的に将来世代にどう悪影響を与えているかお話しします。

先ほど紹介したとおり、すでに分析として、雇用保護規制が強い国ほど新規産業の数が少なく、規模が小さいことが明らかになっています。これは、安易に解雇ができないことが、

新規産業に対する参入ハードルと撤退ハードルを上げているためです。

まず、参入ハードルについては、先ほどお話ししたように、既存の産業が不採算である場合において資本を多く投下できないということに加え、今ある産業が不採算事業になってしまった場合のことを考え、資本を積立金として企業内留保に回さなければならないということです。実際に我が国において企業内留保が増えている、にもかかわらず目立った新規産業がないのはこのためです。

また、撤退ハードルについては、新規産業自体が失敗してしまった場合に、解雇が容易でないことが、負債の増加要因になってしまうというということです。

こうした2つのハードルのために、新規産業の数が少なく、規模が小さくなってしまいます。結果として、将来において企業の数、規模が維持されず、雇用が失われてしまうのです。

 

政策 (583)

このような状況を打破するために、私は3つの政策を提言します。

1つ目は、解雇規制法理の明文化、2つ目は、解雇規制の4要件のうち2要件の廃止、3つ目は、金銭解雇制度の導入です。

 

まず、1つ目の。解雇規制法理の明文化についてです。

現在の解雇規制法理は判例法という形で明文化されておらず、企業にとって予見可能性が低くなる要因の一因になっています。これを新たに労働基準法に明記します。

 

次に、2つ目の、解雇規制の4要件のうち2要件の廃止について説明します。

廃止する2要件は、「整理解雇の必要性」と「解雇回避努力義務の履行」です。これにより、企業がより合理的に行動しやすくなり、残りの2要件、「被解雇者選定の合理性」、「解雇手続きの妥当性」については現行のまま明記します。

 

しかし、これでは労働者の雇用が保護されず、自由に解雇されるようになってしまうのではないか、と考えられる方もいらっしゃると思います。ここで、3つ目の政策として金銭解雇制度を導入します。これは、解雇をする際に、一定額の金銭を払わなければならないというもので、解雇された労働者の生活を保護できることになります。

 

以上をまとめると、企業が合理的な行動をとりやすくするために、解雇規制を緩和し、それを明文化します。また、労働者の雇用を守るために同時に金銭の支払いを企業に義務付け、労働者の生活をある程度守れるようにします。

 

 

結語 (243)

国は、現在の労働者だけでなく、将来の労働者も含めて雇用を維持すべきです。この観点から、解雇規制の存在によって、将来世代の雇用量そのものが低下してしまうという非効率性が発生している以上、解雇規制が現在の労働者を保護する根拠にはなりえません。

 

将来世代の雇用を維持するためには、企業が合理的な経済活動を可能にする環境を整えるべきです。この目的のため、一刻も早く硬直的な解雇規制を緩和し、時代に合った、新しい形の雇用規制を推進すべきであると考え、提言いたします。

 

ご清聴、ありがとうございました。